「同じグループでいるのは辞めよう」という言葉の真意

もう数年前のことですが、ある女子中学生(Aさん)が昼休みに号泣してしまい、授業にも出られない状態になってしまいました。少し落ち着くまで、保健室で過ごすことになりました。

たまたま空き時間だったので、保健室に彼女の様子を見に行きました。泣きじゃくっていて、とても話せる状態ではありませんでした。

待つこと20分。ようやく落ち着いたので、なぜ泣いているのか、話してもらいました。すると…

「なんか、わかんないけど、BさんとCさんに、もう同じグループでいるのは辞めようって言われちゃって…。何で?何か悪いことしたの?良くないところは直すからって言ったけど、特にないからって言われて…もう訳がわかんなくなっちゃって…(以下、涙でしゃべれず)」

Aさんの話では、いつも仲良くしていたBさんとCさんに、その日朝学校に行ったら、突然、一緒のグループでいるのは辞めようと言われたそうです。その日から一緒にお弁当も食べないことになり、昼休みにすごく悲しくなって、涙が止まらなくなってしまったのです。

彼女たちは、Aさんは、Bさん、Cさん、Dさんの4人で仲良しグループだったのですが、Aさんによると、BさんとCさんがいきなり、
「もう4人で一緒にいるのは辞めよう」
と言ってきたそうです。BさんとCさんから、
「自分たちの考えが変わったせいだから、ごめんなさい」
と、一方的に言われたそうです。その日以来、AさんとDさん、BさんとCさんに別れて過ごすようになりました。

この話を聞いて、Aさんがすごく悲しんでいるのが、とても悼まれず、どうにかしてあげたいという気持ちが沸き上がりました。その一方で、友達関係のことだから、そっとしておいたほうがいいのかと迷いました。少し時間をおいて、もう一度話し合ってみても良いかもね、と言うのが精一杯でした。

しばらくの間、Aさんは元気がなかったですが、Bさん・Cさんとは挨拶を交わしたり、ちょっと話をする関係は保っているので、気長に仲直りできることを待つことにしたそうです。

私は、彼女たちの関係が気になっていましたが、静観することにしました。


2カ月ほど経ったある日、BさんとCさんが、話したいことがあると、私のところに来ました。2人は、Aさんと一緒のグループで行動しなくなった理由を話してくれました。

2学期に入ってから、Aさんがだんだん調子に乗ってしまい、BさんやCさんが嫌がること(詳しいことは差し控えますが、身体的な痛みを伴うこと)を、Aさんがするようになったそうです。「痛いから止めて」と、何度言っても止めてくれず、Aさんは面白がってし続けたそうです。

1ヶ月くらいそれが続いて、BさんとCさんは、最初自分だけがされていると思って、誰にも言わず黙っていたそうです。ある日部活の帰り道、たまたま2人で帰った時に、BさんがCさんに相談したら、Cさんも同じことをされていたことが分かったのです。お互いに親に相談したところ、Aさんを傷つけるのはよくないし、自分たちも我慢しすぎるのは良くないから、そっと距離を置くのがいいとアドバイスをもらったそうです。また、Aさんが孤立せず、Dさんとは一緒にいられるように、Dさんにはその事実を伝えず、直接被害にあったBさんとCさんだけが、距離をおくことにしたそうです。

また、BさんとCさんは、他の人にはもちろんですが、Aさんには自分たちの気持ちを言わないでほしいと頼まれました。そして、Bさんは、Aさんに対する思いを、こんな風につぶやいていました。

「Aさん、早く気づいてくれるといいな」と。

この2人の対応を見て、中学生なのに(と言っては失礼ですが)、すごく大人な対応をしていると感心しました。感心したポイントは、以下の4点です。

①Aさんに嫌なことをされたにもかかわらず、Aさんを直接批判しなかったこと。そして、吹聴もしなかったこと。
②BさんとCさんは、自分たちの気持ちも大事にしたこと。
③BさんとCさんは、自分たちがこの件で批判されたとしてもかまわない、だけど言い訳はしないと覚悟を決めたこと。
➃Aさんを孤立させないように、細心の注意を払ったこと。

BさんとCさんが、同じグループでいるのを辞めようと言った真意は、「Aさんに、自分たちが嫌なことをされて、それが分かってくれなかったから仕方がなく別のグループになることを決めたということを早く気付いてほしい」ということでした。友達の足りていないところを、厳しく指摘するのではなく、本人に気づきを促すというやり方です。とても大人っぽい対応で、大人でもなかなかできることではないと思います。

最後に私は、BさんとCさんに、

「Aさんが、あなたたちがされて嫌だったことを、分かってくれて行動が改まったらどうする?」

と聞いたら、「もちろん、元通り同じグループになるよ」

と答えてくれました。友だちを想うってこういうことなんだなあと、彼女たちから、人として大切なことを教えてもらいました。